​入江 哲朗

武蔵野美術大学言語文化研究室非常勤講師。

1988年生まれ。日本学術振興会特別研究員PD(国際基督教大学)。アメリカ思想史、映画批評を専門とする。

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―20歳の頃、どのような音楽を聴いていましたか。

入江:私はアニメソングと映画のサウンドトラック以外の音楽をほとんど聴かない人間で、逆に言うと、そのとき放送されていたTVアニメを調べると私が聴いていた音楽がだいたいわかります(笑)。私が20歳になったのは2008年11月で、そのころ私がリアルタイムで見ていたアニメは「とらドラ!」です。なのでその主題歌を、特に1期のオープニング曲の『プレパレード』と2期のエンディング曲の『オレンジ』をよく聴いていました。「とらドラ!」はいまはNetflixで見られます。

2000年代は「クール・ジャパン」という言葉が持てはやされていて、「オタク文化の最新動向をチェックしておくことが若者のたしなみ」みたいな雰囲気が少しありました。私は当時から現在までずっと深夜アニメを見つづけており、もちろんそれはたんに私がアニメ好きだからですけど、学生時代には「深夜アニメを見ることによって時代の最先端にキャッチアップしている」という意識をいくらか持っていたわけです。この意識は、現在の学生には想像しにくいかもしれません。なにしろいまや、マンガやアニメは完全に若者の日常生活の一部ですから。劇場版「鬼滅の刃」も興行収入の記録を更新しつづけていますし。

 

 

―現在どのような音楽を聴いていますか。

入江:これも、いま放送されているアニメを調べるとわかります。私が現在よく聴いているのは、昨年10月に放送開始されたTVアニメ『呪術廻戦』の、1期オープニング曲のEve『廻廻奇譚』と、1期エンディング曲のALI『LOST IN PARADISE feat. AKLO』です。「呪術廻戦」を最初に見たときは、めちゃくちゃおしゃれなアニメであることにビビりました(笑)。主題歌もおしゃれだし、特にエンディング映像の驚異的なおしゃれ度はネットでも話題になりましたよね。私は「そっか、アニメはいまやこんなにもおしゃれになったのか……」という感慨さえ抱きました。

雑誌の「ユリイカ」は2005年に「オタクVSサブカル!」という特集を組んでいるのですが、現在の学生はきっと、「オタク」と「サブカル」が対立させられているこの特集名を見て、「オタク文化ってサブカルじゃないの?」という疑問を抱くでしょう。でも、特に1990年代前半まではアニメ=オタクが見るものという認識が一般的で、アニメが好きなオタクたちの世界とサブカルが好きなおしゃれピープルの世界とは相容れないと思われていました。下北沢で古着屋を見てまわるのが好きな人はアニメなんていっさい見ない、みたいな。……いや、私自身が当時の雰囲気を記憶しているわけではないので想像で語っていますけど、少なくとも、アニメ=オタクが見るものという認識が1995年の「新世紀エヴァンゲリオン」の社会現象化により大きく揺らいだことは確かです。かくして1995年以降、アニメを見る人びとの範囲はどんどん広がり、オタクたちとおしゃれピープルとの棲みわけもだんだん解消され、いまや「呪術廻戦」みたいな超おしゃれなアニメが製作されている。そんな歴史が、私には感慨深く感じられたわけです。

 

 

―武蔵美生に是非聴いてほしい音楽はありますか。

入江:私の音楽の聴き方はとても偏っているので、武蔵美生に音楽を薦めるなんて畏れ多い感じがしますけど……。強いて挙げれば、2007年に放送されたTVアニメ「らき☆すた」のオープニング曲の『もってけ!セーラーふく』ですかね。当時におけるこの曲の衝撃は非常に大きかったです。オタクを100人集めて2000年代のベスト・アニメソングを5つ挙げろと言ったら、90人以上が「もってけ!セーラーふく」を含めるんじゃないかと思います。この曲は畑亜貴さんの代表作のひとつでもあります。畑亜貴さんはアニソン史における超偉大な作詞家で、彼女はアニメ・ファンにとって、ジブリ・ファンにとっての久石譲のような存在だと言えるでしょう。

「らき☆すた」はいわゆる日常系アニメで、女子高生たちがしょうもない話を延々とだべっており、事件はほとんど起こりません。しかし『もってけ!セーラーふく』は、特に歌詞が非常に混沌としている、つまりカオティックで、曲全体に爽快感が満ちています。本編の平板な日常と、オープニング映像のカオティックなパラダイスとが隣りあっているところが「らき☆すた」の魅力です。もっと話を大きくして、日常のすぐ隣にカオティックなパラダイスがあるというスリリングな感じにこそアニメの醍醐味のひとつが宿っている、とさえ言えるかもしれません。現在の武蔵美生のみなさんが「らき☆すた」を見てどう思うかは私には想像しがたいですが、少なくとも『もってけ!セーラーふく』が歴史に刻まれる一曲であることは間違いありませんから、アニメに興味がない方も一度聴いてみてほしいと思います。

取材:2021年1月5

​編集:福田