加藤 幸治

武蔵野美術大学教養文化・学芸員課程教授。

1973年静岡県生まれ。総合研究大学院大学文化科学研究科比較文化学専攻博士(文学)。流通民具論による民俗技術、復興まちづくりのための公共民俗学、常民文化研究の学史に関する研究を専門とする。

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20歳で聴いていたSalif Keita『Kuma』

─20歳のころはどんな音楽を聴いていましたか?

加藤:僕の青春時代は基本的に90年代前半だったね。高校生の頃はハードロックが好きで、バンドも組んでギターを演奏していました。それで大学に入る頃に、イギリスのチャートが、ロックだけじゃなくてクラブミュージックを多く取り上げるようになったということがあって、僕はクラブミュージックばっかり聴くようになったんだよね。具体的に挙げるとしたら、soulⅡsoul『Keep on Movin’』(1989)、Massive Attack『Karmakoma』(1994)、Incognito『Don’t You Worry 'Bout A Thing』(1992)。

─それぞれはどのようなジャンルですか?

soulⅡsoulは「グランドビート」というジャンルで、イギリスのブリストルにはジャマイカ系の人が多いんだけど、レゲエとヒップホップが結びいて生まれた革新的な音楽なんです。これがさらに熟成されていって、90年代の頭には「ブリストルサウンド」と呼ばれるものが出てくる。16ビートにレゲエの「ウッタッウッタッ」という裏打ちが入る、独特なウネるようなグルーヴ感が特徴なんだけど。その中のMassive Attackには当時僕は心酔して、神様のように崇めていました(笑)。これらと同時期に、ロンドンでは「アシッドジャズ」というジャズが流行するんだよね。当時ってDJが力を持ち始めた時代だったんだけど、古い50~60年代のジャズやボサノヴァとクラブミュージックとの融合みたいな実験的なことを奴らが始めちゃって、ジャズのリヴァイヴァルが起こったんだよね。

 

 

─インタビュー前のチャットで、ご自身も作曲されていると伺いましたが、詳しくお聞きしたいです。

加藤:うん。そんなイギリスの事情に興味があったんだけど、レコードは日本で揃ってないから、もうこれは行くしかない!と思ったんですよ。で、親父があるバーに通ってて、サロンみたいにいろんな業界の面白い人が集まってて、僕も仲良くさせてもらってたんだけど、1人1人に僕はイギリスに行かねばならぬので出資してください!とお願いしたら案外お金が集まって。それで大学1年生の夏休みに2ヶ月くらいロンドンに行って、何が起こっているのかを自分の目で確かめに行ったんですよ。大学で勉強してる場合じゃないってね(笑)。

─すごい!行動力に驚きます。

加藤:そこで現地で見てたら、サンプラーとシーケンサーがあれば自分も作曲できるな、ということに気がづいて。知識や技術というより、何をサンプリングするかというセンスが問われているんだなって。大学が京都にあったんだけど、京都って独自の音楽シーンが築かれていて、京都で活動することで直接世界と繋がることができるという。こういうのグローカル性とも言うんだけど。それで日本に帰ってからは、例えばラジオ局のニュースのBGMを制作してお小遣い稼ぎ、とかもしてたかな。民俗学の授業を取ったことがある人は聴いてると思うけど、動画のオープニング音楽も自分で作曲したものなんですよ。

─私も動画を見て誰の曲なんだろうと思っておりましたが、まさかご自身で作曲されていたとは。

 

─現在はどのような音楽を聴いていますか?

加藤:Billie Eilish『Bad Guy』(2017)ですね。僕はティーンネイジャーでもないけど、普通にBillie Eilish好きなんだよ(笑)。何が良いかって、お兄ちゃんとやってる。つまり家の中で出来てるんだよ。兄妹で作ってSoundcloudにあげて、「引きこもる私」という主題を誰とも対面せずに発信できるというのが、現代っぽくて面白いなって思います。歌詞とか酷いじゃん、どこまでネガティヴなんだよって。でも変に共感できちゃうんだよね。

 

─武蔵美生に聴いてほしい音楽はありますか?

加藤:ダニー・ボイル監督の映画「Trainspotting」の主題歌、Underworld『Born Slippy』(1995)かな。この映画は「鬱屈した雰囲気の中から新しいものが生まれる」という様子が描かれていて、コロナの中の僕たちを勇気づけてくれると思う。だから、武蔵美生にはこの映画を紹介したいし、その主題歌も聴いて欲しいですね。

 

─ご専門の民俗学の研究と音楽で関連することはありますか?

加藤:ワールドミュージックかな。実は、今民俗学をやってるのも、クラブミュージックからワールドミュージックへ興味を広げて、そして民俗学に辿り着いたということもできるんだよね。ここでワールドミュージック編を挙げるとするならば、20歳の頃はアフリカのマリのSalif Keita『Kuma』(1991)、最近ではSona Jobarteh『Gambia』(2018)、Newen Afrobeat『Zonbi』(cover) (2018)を聴いているかな。武蔵美生へのおすすめはナイジェリアのサックス奏者 Fela Kuti『Pansa Pansa』(1995)です。パンサパンサは「猿のように」という意味で、軍事政権に対する批判や解放を暗示しているんです。

取材:2021年1月6

​編集:泉