小幡 正敏

武蔵野美術大学教養文化・学芸員課程教授。

1958年静岡県生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程社会学専攻単位取得退学。現代日本社会における個人化と、その統治の研究。

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武蔵美生に聴いてほしいPANTA『クリスタルナハト』

 

─20歳の頃はどんな音楽を聴いていましたか?

小幡:20歳の頃って大昔で、僕はもう62歳なんですよね。このインタビューの依頼を受けて、せっかくだからと思って自分の音楽に関わる半生を振り返ってみました。

─ありがとうございます。

小幡:音楽を色々聴いていたのは10代の頃で、ロックをよく聴いていましたね。20代になると音楽に対する興味関心は薄れ、映画に興味が移りました。年間100本は必ず観るような映画三昧。30代に結婚するんですが、何故か映画館に行けなくなっちゃって。結局また音楽を聴くようになるのですが、30代40代はクラシックでした。と言っても咀嚼できているわけではなく、分からないながらにあれこれ聴いていましたね。50代に入って、ジャズを聴いて良いんじゃないかと思えるようになりました。20代の頃は、若造がジャズや落語についてウンチク語るのが本当に嫌いでね。50代になって、奥深さが分かってきたかなと。20歳の頃は70年代の終わりなんですけど、パンクやプログレをよく聴いていました。10代後半は自分にとって間違いないカリスマ、デヴィッド・ボウイっていうカリスマがいて。当時は入れ込んで聴いていましたね。

─よく聴いていた1曲をあげるとしたら、どの曲ですか?

小幡:『China Girl』という曲ですね。ボウイがセルフカバーしています。77年にイギー・ポップ「The Idiot」っていうアルバムにボウイが作って入れた曲で、これがたまらなく好きでしたね。あとはセックス・ピストルズですかね。『Anarchy in the U.K.』。音楽性もクソもない、ベースは楽器じゃなくてステージに上がってくる観客を殴るものだという。

 

─何かパンクを聴き出したきっかけはありますか?

小幡:流行っていたというのはありますよね。それまでのプログレは演奏技術や音楽性がすごいとか、でもパンクはそんなの全然関係ない。誰でもできちゃうみたいな。本当は誰でもできるわけではないんだけど、そういう爽快さがありましたね。やっぱり10代や20代の頃って、音楽はある種、文学とか哲学とか、そういう思想に触れるきっかけになりますよね。rockin'onっていう雑誌があって、あれは70年代の前半に創刊されるんだけど、完全にマニアックな、文学・哲学青年向けの雑誌で。そこで僕は哲学的にボウイとかロキシーミュージックを学びましたね。

 

─現在はどのような音楽を聴いていますか?

小幡:大体、仕事をしている時はクラシックをかけていることが多いです。一番聴いているのはドビュッシーですね。ロックを聴いていた頃と同じで「かっこいい」という感じで。あとは、ボサノバのアントニオ・カルロス・ジョビンの曲を坂本龍一モレレンバウム夫妻が演奏しているアルバムがあって「CASA」というんですけど。CASAは「家」という意味で、実際にジョビンの家で録音されています。多分これはここ10年で一番聴いていますね。ポルトガル語なので歌詞は入ってこないけれど、心地良いんですよね。非常に無責任な聴き方かもしれないけど。もう一枚、同じ3人で出した『A DAY in new york』も飽きるくらい聴いてますね。

 

─社会学を研究する上で何か音楽と関連することはありますか?

小幡:自分の専門と音楽との接点はパッと思いつかないんだけど、哲学者のスラヴォイ・ジジェクは現代の音楽を説得力を持って語っていますね。哲学界のロックスターと言われているくらい。他にもメディア学者のフリードリヒ・キットラーはポップミュージックにかなり影響を受けていて、難しい著書にジミ・ヘンドリックスを出したりとか。

 

─今更ですが、20代の頃に音楽から離れて映画に興味が移ったというお話が気になります。

小幡:音楽から離れていったというより、僕自身哲学を理解するために音楽を聴いていたというか。若い頃は音楽で世界変えられるとか思うじゃないですか。そういう感覚が薄れていった。そこに映画っていう全然違う世界の見方が入ってきたという感じですかね。あとは30歳まで学生で、下宿生活をしていて近くにCDを流すプレイヤーが無かったから、そういうこともあるのかな。

 

─武蔵美生に是非聴いてほしい音楽はありますか?

小幡:CDだと2枚あるんだけど、1枚目は先ほど話したデヴィッド・ボウイの「ロウ」というアルバム。もう1枚は、PANTAっていう人の「クリスタルナハト」というアルバムで、日本語で”水晶の夜”という意味です。ヒトラーが32年に政権を取って33年に首相になるんだけど、ナチが政権取った後にユダヤ人が経営している商店なんかを一方的に破壊して、街全体の商売をできなくするわけ。そこで割れたショーウィンドウのガラスが、水晶みたいに輝いていたということで、この暴虐的な事件を“水晶の夜”って呼んでいます。そんな意味の「クリスタルナハト」っていうアルバムを87年に出しているんですよね。このアルバムの中の『プラハからの手紙』という曲が特におすすめです。

あと、CDじゃなくて本なんだけど、これは是非読んでほしいなというのがあって。「東京大学のアルバート・アイラー」という本。これは東京大学でのジャズの講義をそのまま書き起こしたものなんですよ。楽しみながらジャズの歴史を学べる本なのでおすすめです。

取材:2021年1月5

​編集:木島